映画「バジュランギおじさんと、小さな迷子」レビュー | 織田博子(オダヒロコ)ポートフォリオ oda Hiroko portfolios

映画「バジュランギおじさんと、小さな迷子」レビュー

目次

ボリウッド(インド)映画ブームでついに公開!名作「バジュランギおじさんと、小さな迷子」

公式サイト

2015年にインドで公開され、長く愛されてる「Bajrangi Bhaijaan(邦題:バジュランギおじさんと、小さな迷子)」がついに日本にやってくるよ!
2017年にカタール航空の飛行機内で見て、ボロボロに泣いた映画。
まさかあののち、「バーフバリ」が大ヒットし、「ダンガル きっと、つよくなる」に続き「バジュランギおじさんと、小さな迷子」が日本で公開される日が来るとは…!

濃い紅茶とスパイスと、さわやかなミルク。チャイのような映画

主演のサルマン・カーン(代表作:ダバング 大胆不敵」「スルターン」)は、日本公開作品が異常に少ないけど、インドでは「3大カーン」と呼ばれるほど人気のベテラン俳優さん。

織田裕二にマサラをぶっかけた感じのイケメン、シャ・ルク・カーン(「ディル・セ 心から」、「恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム」)、
芸術的かつエンターテイメントな大作を監督・演じる完璧主義者のアーミル・カーン(「きっと、うまくいく」「ラガーン」)と並んで
「3大カーン」と呼ばれている。

私はこのサルマン・カーンが、インド映画沼の第一歩だったこともあり、大好きな俳優さん。

サルマンは日本の昭和の俳優を思わせる、「俺らの兄貴」的なマッチョで親しみやすい役柄が多い。
どの映画でも必ず自慢の上腕二頭筋と腹筋を見せる(袖が破れたり拷問を受けるシーンを入れたりして)

サルマンが濃い紅茶って感じ。
しかし今回はさわやかな青年役(邦題では「おじさん」ってなってるけど、原題は「バジュランギ兄貴」という意味)。

そして各所に入る、インド映画らしいダンスシーン
最近の映画にはダンスシーンがない作品もあるけど、やっぱこのダンスシーンが来るとテンション上がります。
(余談だけど私、妊娠8か月で、おなかの中の子どもが一緒になって踊ります)
これがインドらしいスパイス。

そしてこの作品の名女優、カリーナ・カプール…ではなくオーディションによってえらばれたシンデレラガール、ハルシャーリー・マルトーホラ(ムンニちゃん)。

もうこの子がかわいくてかわいくて!
出てくるたびにキラキラ星が舞ってる。

彼女が紅茶とスパイスの強烈さをやわらげるミルクのような存在で、
この映画をふわっとやわらかくかわいらしい雰囲気に仕上げてる。

あらすじ

邦題決定記念イラスト

小さい頃の事件がきっかけで話せなくなった6歳のパキスタンのイスラム教徒の少女、シャーヒダーと、
そのことを案じる母は、インド・デリーの寺院で祈りをささげる。

しかし、帰りの夜行電車がトラブルで止まっている時に、線路近くの穴に落ちた山羊を助けようと電車を降りたシャーヒダーは
発車した電車に乗りそびれてしまい、一人インドに取り残されてしまう。

言葉がしゃべれないシャーヒダーは、たまたまハヌマーンの祭りの踊りをしていたパワン(=バジュランギ=ハヌマーンの意味)が信頼できる人物だと感じ、ついていくことに。
情の篤いバジュランギは、さまざまな手を尽くすがパキスタンに少女を送り返すことが難しいことがわかり、
自分自身で彼女を故郷の村に届けてあげようと決意する。

ネタバレ含まない、私の感想

冒頭のシーン、パキスタンの山岳地帯・カシミール地方の素朴な人々の姿が描かれていて、
まるで文芸映画のような雰囲気で美しい…!

からの、(オリジナル版からのカットシーンがあるためもあり)やや唐突な印象のバジュランギおじさんのダンスシーン「Selfie le le re」。

とにかくエンターテイメント!豪華!なこの曲、初めて見た時は衝撃で、頭からメロディーが離れなかった。
ちなみにサルマン・カーンのダンスは、他のボリウッド俳優と比べてすごく簡単なものが多いで、マネしやすいです。
みんなも真似して流行らせよう。

ちなみに「ハヌマーン」はヒンドゥー教の猿の姿をした神様で、とても人気のある神様。
このバジュランギおじさんは、熱狂的なヒンドゥー教徒、時にハヌマーンを信仰していることがこのダンスシーンでわかる。

このインド映画っぽさに最初は圧倒されるけど、このシーンは
「異国で一人ぼっちになってしまった少女が、『この人は信頼できる!』と思う大切なシーン」
なので、そのように観てください!そういうものなので
(私でもこのシーンは「異国に来たら知らんおっさんが知らん神様をバックにセルフィ―してて怖い…!」って見えるけど)
そういうものなので

で、バジュランギおじさんは少女が迷子であることを悟って、いろいろ手を尽くすんだけど、
ひょんなことから少女がイスラム教徒ということがわかり、動揺する。

この「動揺する」っていうのが、日本人の感覚だとややわかりにくいかなと思います。

「世界のおじちゃんとスイーツ」展のために描いたイラスト。ソーン・パプディを食べている

文化的バックグラウンドを知っているとより楽しめる映画

というわけで、ネタバレしない程度に、「この知識を持って見ると見え方がちょっと変わるTips」を書いておきます。

・ヒンドゥー教徒はベジタリアン(菜食主義者)が多く、イスラム教徒は肉(ブタ以外)を日常的に食する

バジュランギおじさんの婚約者のお父さんが「隣のイスラム教徒が肉を焼いてるんだ。汚らわしい」というセリフがある。
ヒンドゥー教徒は敬虔な人ほど菜食主義者が多いので、肉食をすることを「けがれる」という印象がある。

余談だけど私がインド西部のグジャラート州に行ったとき、州全体で禁酒、肉食も好まれないということで、
肉を食べたくなったらイスラム教徒のレストランに行ってました。

バジュランギおじさんは敬虔なヒンドゥー教徒なので、肉を食べるイスラム教徒に苦手意識があり、
少女がイスラム教徒だとわかった時、めちゃくちゃ動揺する。

・インドとパキスタンは同じ国だったが、1947年に宗教の違いで分離独立した

イギリス統治時代は同じ国だったけど、イギリスからの独立時にパキスタンがイスラム国家の建設を宣言。
インドとパキスタンは別の国となった。
ここら辺でいろいろ悲劇があったんだけど「英国総督 最後の家」を見るとわかりやすい、と私のボリウッド映画の師匠が言ってた(私観てない)
ミルカ」(Amazon prime videoで見られる)もこの印パ分離の時のお話。シーク教徒の普段の生活も見られるお気に入り映画。

この時に「カシミール」地方もインド側、パキスタン側にわかれたため、同じ地名が両国にある。
ちなみにこの「バジュランギおじさん~」、パキスタンを好意的に描いているので印パ合同映画なのかと思いきや
撮影はすべてインドで行われているとのこと。

パキスタンとして映される街は、インド西部のラージャスターン州のタール砂漠やパンジャブ地方といった、インドの中でも中東っぽい雰囲気の漂う街だったりする。

・インドの公用語ヒンディー語とパキスタンの国語ウルドゥー語は、文字は違うが読み方はほぼ同じ

パキスタンに入ったバジュランギおじさんが、普通にパキスタン人としゃべっているシーンがあるんだけど
両者のしゃべっている言語の発音はほぼ同じだから、通じてる、

・英語のスラングで「No.1」はおしっこ、「No.2」はうんち

バジュランギおじさんが川の水を飲むシーンで出てくる。

全体的な感想

全体的には、少女を祖国に送り返すという冒険譚なんだけど
言葉の話せない少女と、おっさん(この組み合わせも良い)の心の交流の話でもあり、
ヒンドゥー教世界で生きてきたパワンの、異質なもの(イスラム教)に対する考え方の変化の話でもあり、
なによりも「人は宗教や国家の違いを超えて、愛と尊敬をもって交流していく」という人間賛歌のお話でもある。

印パといえば国家間が非常にギスギスしている印象があり、
もちろこんこの映画でも国家間の衝突が描かれている。
インドから出たことのない婚約者の家族は「あいつら(イスラム教徒)」「あんな危ない国」とさげすむ。

でも、実際に国境を越え、自分自身の体でパキスタンの人々のおおらかさや愛を感じたバジュランギおじさんは、
やがてその生き方や考え方を自然にとりいれていく。

パキスタン人ジャーナリストのセリフ「『憎しみ』の物語はニュースで伝えやすい。みんな簡単に信じる。でも、この物語は『愛』の物語なんだ」(うろ覚え)
というのがこの映画の象徴的なセリフだと感じる。

ミーハーな感想

とにかく「マッチョで俺らの兄貴」なイメージだったサルマン・カーン。
この作品で「不器用だけど、まっすぐな純朴な青年」(もう50代だけど…)という役割を好演した。
今までのマッチョでアホな感じのサルマンもすごく好きなんだけど、この役柄もいいなあ。

今までが「シャツの袖はとにかく破れる系サルマン」と呼べるなら、
結構期待してたけどスベってしまったらしい「TUBELIGHT」と合わせて、「Vネックセーター系サルマン」と呼びたい。

にしても、初見の時に「量産型インド人」としか思ってなかった、パキスタン人ジャーナリスト役のナワーズッディーン・シッディーキー
聖なるゲーム」(Netflix)のボス役の人だよね⁈
めぐり合わせのお弁当」の時も量産型インド人だと思ってた。

気づいたらフェロモン溢れすぎてて、話の筋が吹っ飛ぶほどの存在感を放ってた。なわ様、オーラすごすぎる。

パキスタンのモスクの校長先生も素晴らしいオーラを出してる俳優さん(Om Puri)だったけど、去年なくなられていてこの作品が最後の作品とのこと…!

こんな人におすすめ

・インド映画は初めて、もしくは「バーフバリ」「きっと、うまくいく」あたりを観て気になってる人

・「ロッタちゃん」や「ミツバチのささやき」など、少女が出てくる映画が好きな人

・泣いて笑ってハラハラして、を一回の映画で体験したい人

2019年1月18日より全国で公開予定

この映画がヒットして、サルマンが初来日してくれたらいいなと思いこの記事を書きました…!!